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2009/01/15

オートクチュールを支える二人。

    
オレリー・ラノワズレさん
2月12日から4日間、ラ・ヴィレットで "L'Aiguille en fête" という手芸の見本市が開催される。今年は、オートクチュールに欠かせない刺繍やレースなどを作っている人たちにもライトが当てられる。
ファッションの華ともいえるオートクチュールだが、このオートクチュールに手が届く超裕福な女性は、世界で200人にも達しないという。毎年、オートクチュールからメゾンが姿を消していく。
オートクチュールのショーは、ファッションを支える、さまざまな職人たちが技術に一段と磨きをかけていくための貴重な機会でもある。テキスタイルの画家と自称するカトリーヌ・ジャアンさんと、ビーズやクリスタルなどを華麗に刺繍していくオレリー・ラノワズレさんに、オートクチュールにまつわる話をいろいろうかがった。(真)
文・写真:林瑞絵、魚住咲子

カトリーヌ・ジャアンさん

Catherine Jahan -textiles peints-
「光に強く、色落ちもしないこの技術を身につければ画家のように自由にイメージを投影できる」

 かつてはファッション誌の編集者や撮影スタイリストといった肩書きを持って活躍していたカトリーヌさん。常にモードと隣り合わせで仕事をしてきたが、工場で規則的に処理された「血の通っていない色やモチーフの連続」には、いつも飽き飽きしていたという。
 ある日、ふらっと出かけたパーティで、「布地本来の持ち味を活かした着色技術」を、ロンドンで指導しているイギリス人女性に出会う。フランスでは学べない技術だ。「光に強く、色落ちもしないこの技術を身につければ、画家のように自由にイメージを投影できる」。そう直感した彼女は、すぐにイギリスへ渡る。「自分が本当にしたいことのため、仕事もクライアントもすべて捨てた」。当時35歳だったカトリーヌさん、ゼロからの再出発だった。
 その後は無事に留学を終え、パリに戻る。異国で学んだ技術をベースに、今度は自らわき出る発想で、より個性的なアレンジを試すようになっていく。18年経った今では、ディオール、ラクロワ、バレンシアガ、エルヴェ・エル・ルルーなど名だたるブランドが、彼女の秘技のおこぼれにあやかろうと、コラボレーションを望んでくる。それにもかかわらず、決して成功の上にあぐらをかくことのない彼女は、「いつも自分にとって新しいことを探し続けていて、満足することはまれ」と笑う。
 さて、ひと言でオートクチュールの仕事といっても、クリエイターごとに、仕事の仕方がまったく異なるという。「クリスチャン・ラクロワなら、テーマは例えば「花」といった方向性を立てたら、あとは双方向で提案し合い、模索しながら進んでいく。一方ジョン・ガリアーノの場合は、彼の頭の中で精密な世界観が出来上がっているから、それにどれだけ近づけるかがポイント」だという。仕事の度に、クライアントの方法論に従わねばならないのは、相手が一流デザイナーでも個人客の場合でも一緒。とはいえ、オートクチュールで働く魅力は、それぞれのブランドが独自で入手するレアな素材が存分に使えることにある。「モンマルトルのマルシェ・サンピエールでは絶対に手に入らないわ!」
 そんなカトリーヌさんだが、将来は、自分のブランドを立ち上げたいと意欲を語る。「手作業だからひとつとして同じものが存在しない洋服よ」。いつも彼女が立ち戻るのは、やはり血の通った洋服作りだった。(瑞)

 

 


クリスチャン・ラクロワのドレス。

 


シルクオーガンジーのスカーフ。「どんな方法で模様を入れたかわからないような作品が好き」だとか。


画家のように筆を使いながら、布地に模様を描いていく。


模様を描き終わったら、長い棒に布を巻き付けていく。


巻き付けた布を、特製の高温保湿機に入れ、色を布に定着させる。



シルクスクリーン、リノカット(版画技法のひとつ)、ステンシル…。いろんなテクニックを応用し、世界でひとつのテキスタイルを創り出していく。



 

Aurélie Lanoiselée -broderie-
「コレクションのリズムに合わせて生活するというのは、肉体的にとてもハードなこと…」
 金銀の刺繍糸、きらきらと輝くビーズやスパンコールやクリスタル、レースやオーガンジーをふんだんに使ったオートクチュール・ドレス。そんな華麗な世界を影で支えているのが、オレリーさんのような刺繍職人だ。
 マルシェ・サンピエールからすぐ近いアトリエは、知り合いと共同で借りたアパートの一室を改造したもの。大きな棚にビーズ、スパンコール、刺繍糸、リボンなどのアイテムが並び、マネキン、ミシン、アイロン台が所せましと置かれている。さながら小さな宝石箱をひっくり返したような印象だ。子供のころからデッサンが得意だったオレリーさんは、パリの3区にあるécole supérieure des arts appliqués Duperréでモードデザインを学んだが、全体的なシルエットより、素材に惹かれて、専門を刺繍に変えた。小さな布地に膨大な手間をかけて、緻密な作業をくりかえす刺繍の世界は、「すごいチャレンジ」だったという。そういう彼女は、現在27歳。「指で触って、ひとつひとつの素材の感触を探っていくことに一番興味をもっているの」
 卒業制作がカルバンのアートディレクターの目に留まったのがきっかけになって、刺繍職人の道に入った。その後、クリスチャン・ラクロワとの出会いがやってくる。
 メゾンによってやり方は違うけど、担当するパーツは、デッサンから素材選び、モチーフの構成まで、全工程を引き受ける。助手と二人で、ひと刺しひと刺し、丁寧に糸を導いていく。「デザイナーがイメージする最も美しい形をすぐに汲みとって、短時間で表現するのが一番大事なことだと思う」
 「この仕事を続けていくむずかしさは、何といってもオートクチュールを続けるメゾンの数が減ってきたこと」。つい先日も、注文主のカルバンが、オートクチュールから手を引くと知らされたばかりだ。「それにコレクションのリズムに合わせて生活するのは、肉体的にとてもハードなの」。受注から完成までの約3週間、プライベートもなくなり、血まなこで徹夜の作業が続く。「映画『Brodeusesクレールの刺繍』で描かれたようなのんびりしたお針子の姿は、もう存在しないわ。ひと昔以上も前の話よ」。例えば1月末の春夏コレクションの詳細を知らされるのは、1月に入ってから。いつもギリギリになってからデザイナーが考えをまとめ上げるからだ。それ以外の期間は?「次にデザイナーに提案するサンプルや、個人オーダーのウエディングドレスを作っているの。でも、自分自身の作品を準備する時間もできるだけとるようにしたいわ」
 そんなオレリーさんにとって、この仕事で一番うれしい瞬間は? 「もちろんコレクションを見に行って、自分の作ったパーツがどこに使われているのか、発見する時!」(笑)。ラクロワとは、今回13回目のコラボレーションとなる。「電話が鳴って、もう一度僕のために働いてほしいと言われるたびに、毎回飛び上がるほど嬉しいわ。オートクチュールにとって刺繍とは、ほんの一部の小さな装飾でしかないけど、美しい服に、とびきりの付加価値をつけるものなのよ」(咲)

リボンをふんわり縫い付けて、立体感を出していくリボン刺繍。繊細な手仕事がドレスにインパクトを与える








手芸国際見本市
2月12日から15日まで〈L'Aiguille en fête〉という裁縫、編み物、刺繍、レース、パッチワークなど手芸の国際見本市が開催される。『オートクチュールの秘密』展も。
サイトで申し込めばさまざまなアトリエにも参加もできる。この見本市にオヴニー読者15名様をご招待。
concours@ilyfunet.comまでご連絡下さい。

Grande Halle de La Villette (M。Porte de Pantin)
12日、13日/9h-19h  14日、15日/10h-17h。
10e/12歳未満無料(12歳〜20歳は2人で10€)
www.aiguille-en-fete.com
 

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