

今年ですでに36回目をむかえるアングレーム国際BDフェスティバル。パリのメトロなどで今回の審査員長のデュピュイ&ベルベリアンが手がけたポスターが貼られていたのも記憶に新しい。今年も国内外からたくさんの人が訪れ、アングレームの街は4日間盛り上がった。2008年にフランス語で出版された作品から56作品がノミネートされ、BD最高峰の賞、フォーヴ・ドールが授与される。マンガ家なら一度は夢憧れる賞である。国際的に注目度の高いこのフェスティバルを4日間まるごとリポート!!(ポ)
(文・写真:postics)

アングレームの町
アングレームの町はフランスの南西部ポワトゥ・シャラント地方に位置する。モンパルナス駅からボルドー行きのTGVに乗り、約2時間で到着する。市街地は駅から少し離れており、小高い丘の上に位置する。アングレームの町を囲む城壁がとても印象的で、中世の町に迷い込んだ印象を与える。町の外れにはシャラント川が流れており、市街地から眺める自然もきれいだ。町の中心に市庁舎があり、メインストリートが1本町を横切るように通っており、そこに初代フェスティバル審査員長のエルジェの像が建っている。BDフェスティバルで有名になった町で、至る所に、有名なマンガ家の壁画が存在する。道しるべがマンガでよく使われる吹き出しの形になっているのがおもしろい。これといった特産物がないのは残念だが、コニャック地方が隣接しており、フェスティバル期間はコニャックをあちらこちらですすめていた。マンガフェスティバルの他、城壁沿いをコースとするクラシックカーレースがこの町の2大イベントだ。
大手からインディーズまで出版社スタンドいろいろ
フェスティバルは大まかに分けて大きな二つのスタンドが存在する。一つは大手出版社が連なるブースで構成されている、ル・モンド・デ・ビュル。ここには有名な出版社のフリュイド・グラシアル、カステルマン、ダルゴー、グレナ、デルクール、デュピュイなどのフランスやベルギーの出版社、アメコミに強いパニーニやソレイユなどもこのカテゴリーにある。よくフナックなどで見かけるBDはこれらの出版社がほとんどだ。もう一つはインディーズ系の出版社が連なるスタンド、ル・ヌーボー・モンド。アソシアシオン、アクト・シュド・BD、コーネリアス、レ・ルキャン・マルトー、など、名前が知られている出版社も多いが、このブースの見どころはやはり、あまり知られていない、フナックなど大手の本屋さんでは見つからない出版社のBDや本が見つかるところだろう。日本で例えると、『ガロ』に載っているようなマンガが手に入ると思ってもらうとわかりやすい。本当に聞いたことないような小さな出版社もあるので、思いがけない作品に出会えるかも知れない。パリでも小さな本屋さんでしか見つからないBDがここならすぐに見つかるので、一日がすぐに過ぎてしまう。ぜひ時間に余裕をもって訪れたい。他には、パラ・BDというマンガの古本屋が連なるブースもあり、こちらは本当にマニア向き。長年探していた初版のBDとか手に入る可能性あり!?
マンガビルディング
フランスは日本の次に、いわゆる日本のマンガが売れている国だ。フランスでも日本のマンガはBDと呼ばずにMANGAとしっかりカテゴリーを分けている。ここアングレームでも同じで、マンガのブースはマンガビルディングと、一つのカテゴリーに分けられている。それくらい若者を中心にマンガがフランスでは人気がある証拠だろう。ビルの1階と地下の部分がマンガ専用スペースとして使われ、1階にはマンガ専門の出版社が連なっており常に人でいっぱい。地下にはマンガ作家の展覧会や、サイン会、アニメ上映会場に使われている。特に、水木しげるの妖怪をテーマにした展覧会は興味深い。妖怪をテーマにマンガを描いたパイオニア、『ゲゲゲの鬼太郎』など、有名な作品の原画なども見られたのはとてもうれしい。そのなかでも、葛飾北斎の富嶽三十六景に妖怪のイラストを描きたした作品はフランス人の目にも新鮮に映ったようだ。他には宮崎駿の『崖の上のポニョ』の原画のコピーが展示されていたり、平田弘史のサイン会、村田蓮爾の講演会などたくさんのイベントが催された。アニメや邦画にも力を入れており、『ゲゲゲの鬼太郎』や『河童のクゥと夏休み』、『デスノート』や『さくらん』なども上映。特にフランスではまだ公開されてないが日本では昨年公開された『崖の上のポニョ』やフランスでも人気のあるマンガ浦沢直樹の『20世紀少年』などの試写会は人気があった。『崖の上のポニョ』を観に行ったが、フランス人も気に入っていたようだ。あの一度聞いたら忘れられない「ポーニョ、ポニョ、ポニョさかなの子」と、主題歌を上映後もたくさんの人が口ずさんでいたのが印象に残った。
憧れの作家との出会い
BDファンにとってこのフェスティバルのもう一つの楽しみは、好きな作家のサイン会や講演会で作家自身と触れ合えることだろう。マンガ家を目指している人なら、好きな作家に質問をしてもいい。出版社側もサイン会をすることで、本がいつもより売れるので、力を入れている。人気がある作家だと、サイン会にも整理券を配布する。これに集まる人の数は数百人。このとき整理券が手に入った人は幸せ者だ。今年は初めてアングレームに訪れた、ダニエル・クロウとクリス・ウェア、そして、『ペルスポリス』の作家、マルジャン・サトラピの講演会が注目をあびた。
展覧会も充実
このアングレームのフェスティバルはBDのスタンドだけに力を入れているのではない。たくさんの作家の展覧会も開催している。まずは今年で生誕50周年を迎えるロバのBD「ブール・エ・ビル」の歴史を綴っている展覧会。市庁舎前に設置されたパネルにこと細かく、キャラクターのことや誕生秘話などが表示されている。特に子供たちに人気があった。今回注目の展覧会は、中心から外れたところにあるCIBDI(国際BDイメージ会館)で展示されていた、審査員長も務めているデュピュイ&ベルベリアンの
「二人展」だろう。彼らは二人で作品を作ることが多く、代表作は『ル・ジュルナル・ダアンリエット』や『ムッシュー・ジャン』など。ワイン屋さんのニコラのイラストも彼らが手がけたもので、知名度が高い。彼らの過去を振り返る展覧会の内容は、ファンにかぎらず見どころがたくさんあり、楽しめる。やはり作家のオリジナルの作品に触れられるのはいい。特に初期の頃の作品など、彼らの原点が見えるようでおもしろい。他に、アソシアシオン出版社の創設者の一人、リュッペール&ミュローの『メゾン・クローズ』展。彼らと、毎回違う作家とのコラボで仕上げた4コママンガの展示で、スタイルの違う作家が生む作品は見ていておもしろい。さらに同じ場所に魚喃キリコの作品も展示されている。フランスでも評価の高い彼女の作品は、構図にかなりこだわっており、すっきりとした線で描かれた作品は特徴的。作業風景を撮った映像で、彼女のこだわりが見られたのはおもしろかった。
デッサン・コンサート
今年で5回目を迎えた、コンサートと作家のライブデッサンを織り交ぜたスペクタクル。今回登場するのは、アルチュールHの曲にクリストフ・ブラン。アルノーの曲にニックスとヨハン・デ・モール。ロドルフ・ブルジェの曲にデュピュイ&ベルベリアンといった組み合わせ。アルノーのコンサートを見に行き、うまく曲の内容に合わせて絵を描くな、と感嘆する。もちろん事前の打ち合わせはあるのだが、それでも曲の時間に合わせてデッサンを仕上げていくのは簡単ではないはず。早く的確になおかつテーマに沿った内容のデッサンをするのはマンガ家ならではの技といえよう。アルノーの曲にもユーモアがあって楽しかった。
ウィンシュルス展
インディーズ出版社レ・ルキャン・マルトーを語る時に切っても切れない作家がウィンシュルスだ。『ムッシュー・フェライユ』を描いた作家で、フェライユマガジンの編集長も務める彼は、BD界ではアナーキー的存在。ブラックユーモアたっぷりでダークな作品が多く、今回の個展も自分自身の墓を展示している。ついでに彼の相方シゾーの墓場もだ。墓碑の裏には、「神も主もいらない、おんなさえあればいい…」なんとも彼らしいフレーズだ。今回ノミネートされている作品『ピノキオ』の原画も展示されている。注目するのは彼が撮った映画『ヴィルモール81』が上映されていること。ゾンビ映画で彼のBD作品から伺える内容。B級映画ファンなら喜ぶはずだ。
フォーヴ・ドールは誰の手に!
フェスティバルの大目玉といえば授賞式だろう。フェスティバル最終日に発表されるフォーヴ・ドール(金のフォーヴ)は誰もがつかみ取りたい栄光! 授賞式はカンヌ映画祭のような華やかさはないが、アットホームな雰囲気に包まれている。まずはケース・デパルニュが主催するパトリモワーヌ賞には水木しげるの『総員玉砕せよ!』、新人賞にバスティアン・ヴィネの『ル・グ・デュ・クロール』、アングレーム賞にエミール・ブラボーの『スピルー』、ブラッチの『ル・プティ・クリスチャン2』など。フナックと国鉄SNCFが企画するパブリック賞にガリーの『モン・グラ・ア・モワ』が受賞。そして今年のフォーヴ・ドールはウィンシュルスの『ピノキオ』が受賞した。ウィンシュルスのようなインディーズが出版している作品の受賞はとてもめずらしい。彼のような作家が大賞を取ったことに会場は騒然となった。インディーズから出版するマンガ家にとっても励みとなることだろう。ぜひ本屋で見かけたら彼の『ピノキオ』を見て欲しい。ブラックユーモアたっぷりのファンタジーといったところか。そして最後に来年の審査員長はブラッチが任命され、4日間のBDフェスティバルは幕を閉じたのである…。