
〈職業特集〉第4弾はmaître nageur(水泳指導員)。maître nageurというコトバの響きにはどこか輝きがある。プールサイド、海水浴場で見かける彼らの、見かけ以上にチームワークを必要とする、その大切な仕事ぶりにスポットを当ててみた。水泳さえ上手ならと思われがちな職業だが、水泳指導員になるまでには意外と難関なディプロムを取得しなければならない。今パリでいちばん設備、雰囲気とも に充実している19区のプールEspace Sportif Pailleron。ここで働く、ヒーロー的存在の名コンビ、ブノワさんとマキシムさんの一日です。(麻) |
![]() Espace Sportif Pailleron : 32 rue Edouard Pailleron 19e 01.4040.2770 |
| ブノワさんはパリに近いイヴリーヌ県生まれ。大学でSTAPS(科学技術体育スポーツ課程)を専攻してから、パリの消防署に勤務。BEESAN(Brevet d'Etat d'Educateur Sportif, Des Activités de la Natation)を取得し、ニューカレドニアのビーチで監視員を始める。「約1年間の経験は大きかったです。海岸での仕事は、自然を含めさまざまなシチュエーションに対応しなければなりませんでした。その後、南仏、アヌシーへ移り、2008年からパリで働き始めました」。「英雄天畏男人多情」と左腕に刻まれたタトゥー…プールのヒーローといった印象のブノワさんだが、彼の内面も決して外見の派手さに負けない自負に満たされている。「幼いころから柔術をはじめ、スポーツが大好きでした。フランスだけでなく、世界のどこでも働ける仕事をしたいと思い、たどり着いたのが水泳指導員です。夏の海水浴場を追って北半球へ行ったり南半球へ行ったり、太陽と水と一緒に動いてできる仕事ですね、というのが私の理想ですが」 マキシムさんはガスコーニュ地方出身。「僕は6歳の頃からずっとピアノを習っていて、生まれ育ったオーシュでは、カテドラルでオルガンも弾いていました。でも競走をはじめスポーツが大好きで、ブノワが言うように、BEESANは学校の先生になる場合も必要と聞いていたので、いずれにせよ役に立つかと思い、ディプロムを取りました。この仕事に必要なBEESANは、水に関わるすべてを網羅したディプロム、水のスペシャリストといったところでしょうか。救助法以外に、小児心理、教育学も課程の一部にあります。19歳でアイルランドに語学留学し、フランスへ帰国してこの仕事に就き、今21歳です。人を助けることができ、人に何かを教えられる、僕にとっては情熱的な仕事です」 彼らの仕事はまず、監視が第一だ。プール内では同僚とよくおしゃべりをしている印象を与えることもあるが、常に一定の速度で水面を見ている。状況によっては、プールの周りを歩きながら監視もする。 万が一事故が起こった場合、彼らの俊敏なチームワークがものをいう。「法的には常に3人の監視員が一つのプールにいなければなりません。また小学生の授業ではそれとは別に子供を監視する役目として+2人必要」とブノワさん。「溺れるのは子供が多いですね。消防署の救急車には意外なほどによく世話になっています。プールサイドで転んだり、夏の間開放されるサンルームで日射病にかかったりする利用者が多いです」と言うのはマキシムさん。彼らはまた、アクアジム、シンクロナイズドスイミング、潜水、水泳(乳児、妊婦も含む)の教員でもある。 ところで、監視員というと映画やテレビの世界では特にヒーロー的な存在。利用者からのナンパなどありませんか?「…デリケートな質問ですが(笑)、たまに電話番号をもらったりします。仕事中は監視に集中し、利用者と目を極力合わせないようにしています」というのがブノワさんの返事だった。 |
![]() ![]() |
プール所長のパスカルさん このプールの水泳指導員採用試験の際は、私が中心となって決めることになっています。ブノワとマキシムを採用させてもらったのは、どちらにも、スポーツ、そして救助に対する情熱が見てとれたからです。今の仕事ぶりを見ていても、彼らの、同僚など対人関係の姿勢も好感が持てます。水泳指導員にとって、これが実はとても重要なこと。うまく心が合っていないといざという時にチームワークが乱れてしまうでしょ。プール管理人 毎朝、水泳指導員が来る前に水の検査をすることになっています。年に2回総入れ替えされる水は、毎日フィルターを通して浄水されプールに戻るのです。ここのプールの特徴は、水はフィルターを通すと同時にオゾン殺菌されているので、塩素の量が少ないことです。水以外でもプールに何か技術的問題があった場合は、水泳指導員と連携で作業にあたります。 同僚エロディーさん 私が小さいころは、女性の水泳指導員はゼロでしたが、最近は増えてきました。女性では肉体的におぼつかない部分を、彼ら男性指導員が補ってくれるから助かります。私はもともと水泳の選手ですが、同じクラブにいた選手も、今はここで働いています。 |
水泳指導員に必要なディプロムBEESAN。
| 救急法のディプロムにはAFCPSAMとCFAPSEがあるが、これだけでは水泳指導員maître nageurにはなれない。BEESANと呼ばれるディプロムを取得しなければならない。このディプロムがあれば、水に関わる活動すべてに就くことができる。このプールでは毎週木曜日に、BEESAN受験者のためのトレーニングを行っている。 この試験は中学校教師になる人も必要な場合があり、また赤十字などで働く場合も管轄によって必修という。受験者は必ずしも水泳が得意な人ばかりではないそうだ。その試験内容の一部を教えてもらった。800m連続で泳ぎきる/息をしないで15mを4回泳ぎきる/人形を抱えたまま25mを泳ぎきる/35秒間息を止める/シュノーケルを付けて100mを4回…などなど。もちろん筆記試験もある。次回の試験は5月だそうだ。 |
![]() |
7h![]() 出勤、専用の更衣室で着替える。 7h30 ![]() 一日の仕事は、コートロープをプールに 浮かべることから始まる。 8h ![]() 水の温度を測る。 8h30 ![]() 一般に開放されたプールの監視をする。 |
一問一答 パリの長所は? 仕事が見つけやすいこと。そして人々が常に動いているのがいい。(ブノワ)/ 活気があり、僕には刺激的な街ですね。また、アソシエーションやプールの多さも興味深いです。(マキシム) 休日は何をしていますか? 家族と過ごす。ギターを最近買ったので練習していますね。(ブ)/ 僕もピアノを弾くけれど、筋肉トレーニングは欠かしません!(マ) 好きな音楽は? ベン・ハーパー。アメリカ西海岸の雰囲気が好きです。(ブ)/ クラシック。特にショパン。(マ) プールと海水浴場、どちらが好きですか? 仕事を別にすれば、海水浴場かな。(ブ)/ もちろん海水浴場。(マ) 水泳以外にスポーツはしますか? 柔術を6歳のころからしています。合気道は得意です。(ブ)/ 走ることは続けています。短距離が多いですね。(マ) 生まれ変わってもメートル・ナジェール? はい。オーストラリアでこの仕事をしたいです。(ブ)/ 僕にとっては通過点の仕事なので、現時点でも続けていくかわかりません。(マ) |
11h![]() 小学生の水泳の授業が始まる。監視と同時に 泳ぎ方を教える。 18h ![]() 大人の水泳教室 22h ![]() コースロープを片付ける。 22h15 ![]() プール、更衣室を見回り、消灯。 |
![]() ホイッスル:プール利用者に注意をうながすひと吹き! |
![]() Tシャツ:「水」と書かれている。 |
bâton:長さ2m弱の黄色い棒。プール内では指揮棒のような役割で、使う頻度が高い。 |
![]() 監視椅子:ここに座れば高い位置から監視できる。 |
![]() ライフジャケット:水泳の初心者に貸し出し。 |
|
![]() プランニング表:一日の予定、水泳指導員の出席簿も兼ねる。 |
![]() ライフセーバー:救助の際、プールに投げ入れる。 |
![]() 水中実況画面:水中に8つのカメラが設置され、10秒以上動かない人がいた場合、自動的にサイレンが鳴る。 |
![]() 酸素ボンベ:救助の際に。 |
![]() AED(自動体外式除細動器):プール内での心臓麻痺に即座に対応。 |
水温時計:28℃〜30℃を保つ。 |
文・ 写真:仲野麻紀